業務プロセス統制について

業務プロセスのポイント ③業務改善

みなさん、こんにちは!
【内部統制ナビ】の最終回として、「3.業務プロセスのポイント/③業務改善」について説明させて頂きます。

業務プロセスのポイント ③業務改善

前回と前々回で、「3.業務プロセスのポイント」として、「文書化」および「有効性評価」について説明しましたが、今回はその延長線上にある次のステップとして、「業務改善」について説明致します。

3.業務プロセスのポイント ③業務改善

「財務報告に係る内部統制(J-SOX)」と「業務改善」

金融庁「J-SOX実施基準」の冒頭には、内部統制の定義について、以下の通り記載されています。

「内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。

○ 『業務の有効性及び効率性』とは、事業活動の目的の達成のため、業務の有効性及び効率性を高めることをいう。
○ 『報告の信頼性』とは、組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む。)の信頼性を確保することをいう。
○ 事業活動に関わる『法令等の遵守』とは、事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進することをいう。
○ 『資産の保全』とは、資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう、資産の保全を図ることをいう。

内部統制の目的はそれぞれに独立しているが、相互に関連している。

内部統制の目的を達成するため、経営者は、内部統制の基本的要素が組み込まれたプロセスを整備し、そのプロセスを適切に運用していく必要がある。それぞれの目的を達成するには、全ての基本的要素が有効に機能していることが必要であり、それぞれの基本的要素は、内部統制の目的の全てに必要になるという関係にある。」

広義の内部統制は、4つの目的(業務の有効性・効率性、報告の信頼性、法令等の遵守、資産の保全)の達成を合理的に保証するものですが、今まで説明してきたJ-SOXはそのうちの「財務報告の信頼性」のみを目的とするものです。「財務報告の信頼性」以外の3つの目的は、会社法の内部統制システムに含まれているものの、金商法により整備、運用、有効性評価が義務付けられているのは、そのうちの「財務報告の信頼性」のみとなります。せっかく、J-SOX体制を構築し、内部統制の6つの基本的要素(統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応)について整備・運用・評価したところで、財務報告の信頼性のみの目的で終わらせてしまうことは、非常にもったいないことです。

上記のJ-SOX実施基準にも記載してある通り、「それぞれの基本的要素は、内部統制の目的の全てに必要になるという関係にある」ことから、J-SOXで文書化した業務プロセス文書を、その他の目的にも活用できることになります。この考え方こそ、「業務改善」の根底にあるものです。

内部統制の目的と「業務改善」

内部統制の目的のうち、業務改善に直結する目的は「業務の有効性及び効率性」です。「業務の有効性及び効率性」とは、事業活動の目的の達成のため、業務の有効性及び効率性を高めることをいい、業務の「無駄・無理・ムラ」をなくすBPRがまさに該当します。この観点からの業務改善の考え方は、例えば以下の通りです。

次に、「法令等の遵守」とは、事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進することをいい、一般的に「コンプライアンス」と言われている分野となります。この観点からの業務改善の考え方は、例えば以下の通りです。

さらに、「資産の保全」とは、資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう、資産の保全を図ることをいい、一般的には「リスク管理」の一部をなすものです。この観点からの業務改善の考え方は、例えば以下の通りとなります。

「資産の保全」

今まで説明してきた「財務報告の信頼性」に係る内部統制、つまりJ-SOXは、粉飾防止を目的とし、財務数値の「誤謬」と「不正」を防ぐことを目的としてきたものです。しかし、J-SOXと相互密接に関連する内部統制として、「業務の有効性及び効率性」、「法令等の遵守」、「資産の保全」に係る内部統制があり、それを整備・運用していくことが、今回説明する「業務改善」となります。それでは、業務改善の進め方について以下説明致します。

業務改善のプロセス

業務改善のプロセスは、大きく「可視化フェーズ」と「改善フェーズ」に分かれます。まず、「可視化フェーズ」で業務プロセスを文書化し、さまざまな問題点を抽出した上で、「改善フェーズ」で課題化を行い、改善スケジュールに従って改善策を実施します。

業務改善のプロセス

<可視化フェーズ>

・業務抽出

まずは、主要業務について業務プロセス一覧を作成し、どの業務を可視化するかを検討します。J-SOXでは、評価範囲として文書化対象プロセスを検討していますので、その時に作成している業務プロセス一覧が利用できると思います。

・業務分析

次に、抽出した業務プロセスについて、業務改善の目的を明確化した上で、現状分析と行います。例えば、「業務の有効性・効率性」における業務改善を目的とする場合には、

・どれくらいの負荷がかかっているか?
・どのようなスキルが求められるか?
・どれくらいのコストがかかっているか?
・属人化の状況はどうか?
・「無駄・ムリ・ムラ」はないか?

などの観点から、可能な範囲で各業務プロセスの現状分析を行います。

・業務フロー作成

以上を踏まえて、業務プロセスの担当者に対してヒアリングを行い、「AsIs」(=現状有姿)の業務フローを作成し、②での分析結果などを踏まえて「問題点」を抽出します。ここでいう「問題点」とは、目標と現状とのギャップをさし、目標を達成するために克服しなければならない障害などを意味します。

J-SOXでは、文書化3点セットを作成していますが、これは「財務報告の信頼性」の観点からリスクを抽出していますので、業務改善の目的に沿った問題点を新たに追加抽出する必要があります。

<改善フェーズ>

①業務改善計画

まず、可視化フェーズで抽出された「問題点」について、「課題」を特定します。ここでいう「課題」とは、先ほど抽出した「問題点」を解決するために取り組むべきことをさし、問題点を克服するための具体的なアクションや対策を意味します。

そのうえで、課題を実行するための業務改善計画として、対策のスコープ(対象範囲)、効果の定義、評価軸の定義などを明確化します。

②改善策の実施

次に、具体的な改善策を実施します。例えば、「標準化」の対策として、センター化やアウトソースなど、「効率化」の対策として、RPA(ロボットによる自動化)、電子化、システム化などが考えられます。

③業務遂行

上記の改善策を実施し、運用・定着化を図ります。その際に、成果物のエビデンスや操作ログの取得・保管も必要になります。 改善策の実施とともに、可視化フェースで「AsIs」で作成した業務プロセス文書を「ToBe」(=あるべき姿)の記述内容に修正します。

④効果チェック

最後に、業務改善の効果を測定・評価します。具体的には、業務改善によりコストや工数がどれだけ改善したか分析を行い、もし余剰リソースが発生している場合には他の活用方法を検討します。もし、業務改善の効果が得られない場合は、業務改善計画を見直して、再度改善策を実施することになります。

業務改善ツール

業務改善ツールとして、サン・プラニング・システムズ社の「iGrafx/BPR+」などが考えられます。J-SOX文書化ツールである「iGrafx/SOX+」と同様に、業務プロセスをヒアリングしてフローチャートを作成すれば、業務記述書や問題管理表にも自動連携して同時に作成されるので、非常に効率的に業務プロセスの可視化と業務改善を進めることが可能です。

iGrafx/「BPR+」と「J-SOX+

iGrafx/「BPR+」と「J-SOX+」

BPR+」のイメージ

「BPR+」のイメージ

「BPR+」では、「J-SOX+」と同様に、業務プロセスを可視化してフローチャートを作成し、各ステップに「問題点」(Mマーク)を付記します。問題点に対する「課題」(Kマーク)を付記することで、「問題点」と「課題」の関係が「問題管理表」および「課題対応管理表」として自動作成されますので、業務プロセスの可視化から改善策の実施までの一連の業務改善プロセスが、一括で管理されることになります。

「BPR+」のイメージ

業務改善のまとめ

今回のコラム「3.業務プロセスのポイント/③業務改善」は、以上となります。最後までお読み頂き、誠に有難うございます。

「業務改善」は、今まで説明してきた「J-SOX」の壁を破り、業務の有効性・効率性<BPR>、法令等の遵守<コンプライアンス>、資産の保全<リスク管理>といった、会社法で求められる「内部統制システム」全般にまで及ぶ非常に範囲の広いプロジェクトとなります。まずは、「財務報告の信頼性」の目的に限定した「J-SOX」をしっかり整備・運用し定着化させた上で、次のステップとして「業務改善」にチャレンジされることをお勧めします。

本来、内部統制とは「財務報告の信頼性」に限定されるものではありません。2000年前後の大企業による「粉飾」事件の影響の大きさにより、米国にならい「財務報告の信頼性」に限定した「J-SOX」が日本に導入されましたが、昨今の相次ぐ大企業の「偽装」事件(検査偽装・品質偽装など)を鑑みれば、そろそろ「業務の有効性及び効率性」「法令等の遵守」に重点を置いた内部統制が求められる時期が近付いているような気がします。その場合には、「業務改善」プロセスの構築が必須となり、先行して取り組んでいる企業が勝ち残っていく時代が来るものと思います。

これで、【内部統制ナビ】における小生のコラムは全て終了となります。数年間にわたりお付き合い頂き、誠に有難うございました。もし、本コラムについてご質問やご相談事項などありましたら、以下メールアドレスまでご連絡頂けると幸甚です。(a-sugimoto@actknowledge.co.jp

 

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